9月19日(水)午後9:00~9:57

天文王国おかやまの巨星たち
竹林寺山からアンデス5000メートルの高地へ

星空
世界の天文学に多大な貢献を果たしてきた岡山の巨星たちの姿を追う。
今夏、直径3.8メートルという日本最大の口径を持つ光学望遠鏡が岡山の浅口市にある竹林寺山(ちくりんじさん)に完成した。これまで日本最大は兵庫県のなゆた望遠鏡(2メートル)だったが、その前、2004年まで日本最大だったのも竹林寺山にある、当時、国立天文台が運用していた188センチ望遠鏡だった。晴天率が高い岡山にあって竹林寺山上空は気流も安定しており、標高372メートルと交通の便もよいことから大型望遠鏡の建設地に選ばれたのだ。
その188センチ望遠鏡を少年時代に見たことから宇宙に憧れを抱き、天文学者になった岡山出身の青年がいる。国立天文台に勤務する平松正顕さん(37)だ。平松さんは岡山の遥か彼方、チリのアタカマ砂漠にある標高5000メートルの高地にいた。ここには「宇宙に最も近い電波望遠鏡」といわれるアルマ望遠鏡がある。アルマ望遠鏡は日米欧の合計21カ国による国際プロジェクトでアメリカ製25台、ヨーロッパ製25台、日本製16台の計66台のパラボラの群で形成されている。平松さんはアルマ望遠鏡の日本人向けの広報を担当し、日本とチリを行き来しながら、講演活動や広報サイトの運営にあたっている。
電波望遠鏡とは視覚的に捉えることが不可能な天体が発する微量の電波をキャッチして、電波の強弱に基づいて実像を解析し可視化する観測機だ。アルマ望遠鏡はこれまでに132.8億光年彼方の天体観測に成功している。これは人間の視力6000に相当し、東京から大阪の路上に落ちている1円玉を見つけるに等しい能力だ。
この驚異的な「視力」を可能にしたのがパラボラの形状の精度だ。ごくわずかでも凹凸やねじれがあれば「視力」は格段に落ちる。日本製は、パラボラの俊敏な方向転換を可能にするため軽量のアルミニウムで作られているが、アルミは熱膨張を起こしやすく形状の精度を追求するのは至難の業だ。しかし、日本製のパラボラは1000分の1ミリの精度で完成していた。実は、この奇跡のパラボラにも岡山の人と技が貢献していた。岡山の下町工場「オオタ」と「タナカマシーナリー」が当時JFEプラントエンジに勤務していたエンジニアの福寿喜寿郎さんの指揮のもと作り上げたのだ。
取材班はチリに飛び、平松さんとともに標高5000メートルのアルマ望遠鏡を目指した。そこには、66台のパラボラが展開する大パノラマが待っていた。

写真=アルマ望遠鏡と平松さん