ノートルダム・ド・パリ
 

「パリに木の芽の吹く季節」

 フランス人にとって書物は昔から財産だし、十六世紀に活版の本が広まるまで、僧院などでお坊さんが手書きで写本し、挿絵を羊皮紙の上に長年かけて書き写していたのだ。活版の本が発明されても、フランス版の本というのは全紙大の大きな紙に配置して印刷して、ページの大きさに折り畳み、簡単な仮表紙をつけて糸で仮綴じしただけで、自分でペーパーナイフでページを切り開きながら読んでいくのだった。書物を買う人は社会のエリートだし、手軽な本なんて無かった。書物には値段を印刷しないのが普通で高価、毎年価格リストが出版元から回って来て、今年はこの価格になりましたと知らされ、店員が鉛筆で毎年書物の最初のページの上隅に書き込んだり、書き換えたりしていたのだった。堅い表紙や最初から値段の刷り込んである本は安物本で、実用書、教科書みたいなもので、二十年くらい前までは考えられなかった。
 だから、パリの町々には「レリユール」装丁屋さんというアトリエ工房の店が沢山あって、注文で好みの表紙をデザインして本格製本してくれるのだった。

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