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【後編】ドキュメントCOP26 『石炭』をめぐる表現はこうして弱まっていった

 ■COP26、日本の存在感とは
最終日13日、COP26の成果文書が採択された後、 気候変動担当の中国の解振華特使は早めに会場を立ち去っていた。日本時間の朝のニュースで会場前からの中継を終えたところにインドのヤダフ環境相が出てきた。メディアに囲まれながら足早に歩く。「他国からの不満を聞いてどう思いましたか?」そう聞いても無言だった。中国・インドとぎりぎりの調整をしたアメリカのケリー特使は、歩きながら記者たちの取材を受けていた。焦点の石炭の消費をめぐり「段階的削減」に表現が変わったことについては「段階的削減をすることから始めればいい」とCOPの合意文書に化石燃料や石炭が初めて書かれることの意義を強調した。 そもそもアメリカや中国、インドはCOP26期間中にイギリスが音頭をとった「石炭からクリーンエネルギー移行への声明」に署名していない。アメリカのバイデン政権は2035年までに電源の脱炭素化を表明しているものの、国内の石炭産業に配慮する必要もある。結局は中・米・印の「排出トップ3」が容認できるラインで落ち着いたということだろう。気候変動の影響を大きく受ける小国たちの事情はよそに。 日本はGDP、国内総生産は米・中に次ぐ世界3位で、温室効果ガス排出量は5位。高い技術力を誇るアジアで唯一のG7(主要7か国)メンバーだ。ただ、山口環境相が土壇場の議場で中国やインド、アメリカ、議長国のイギリスなどと混じって化石燃料・石炭の文言をめぐりやりとりするような姿は確認できなかった。帰国後の会見で山口環境相は、日本としては当初案の「廃止」でも問題はなかったとの考えを示す一方「日本としては特に割り込む必要もなかった」と述べた。 日本の石炭火力についての方針を考えれば、あの場面で目立つ必要はないのは理解できる。とは言え、世界の今後を左右する全体の合意の成立が危険にさらされている局面でもあった。先進国であり、主要排出国である日本が議論に参加することがなかったように見えたのは物足りなさも感じた。COP26が開会した直後の首脳ウィークでは、総選挙直後の岸田首相が滞在わずか8時間という強行日程で現地に乗り込んだ。そこで官民合わせて今後5年間で100億ドルの追加支援などを表明したことは確かにインパクトを残した。長らく待たれていた排出権取引の市場メカニズムのルール作りで議論を主導したことも合わせて、政府関係者は「存在感を示した」と誇る。ただ、日本の世界でのポジションを考えれば存在感を示せないほうが本来おかしい。 一方で日本は「石炭」については存在をほとんど消してきた印象がある。それは国内向けの発表にも端的に現れている。COP26開幕を控えた10月13日、岸田首相は就任後初めてイギリスのジョンソン首相と電話会談した。その際、イギリス外務省の発表文には石炭をめぐる日本の取り組みについて、こう記されている。 The Prime Minister welcomed Japan’s strong commitment to Net Zero and to ending international financing for coal. He hoped to see a new pledge from Japan ahead of the COP26 Summit on ending the use of domestic coal power, supporting the global transition to renewable and clean energy.(英政府ウェブサイトより) 「(ジョンソン)首相は日本の排出量実質ゼロ化、および国際的な石炭への融資を終わらせることへの力強い取り組みを歓迎した。再生可能・クリーンなエネルギーへの世界的な移行を支援するうえで、COP26に向け国内の石炭火力発電廃止に関する日本の新たな約束を期待する」 しかし、同じ電話会談に関する日本外務省の発表では、気候変動について「両首脳は、COP26に向けた気候変動対策や新型コロナ対応など、国際場裡での連携も一層強化していくことで一致」したとあるだけだ。石炭という言葉はない。似たようなケースは他にもある。COP26が閉幕した後の15日、ジョンソン首相は会見で会議は「石炭の弔いの鐘を鳴らした」と胸を張った。「英語を話す者としてphase down(段階的削減) もphase out(段階的廃止)もあまり変わらない。下降方向は一緒だろう」とも。実際、いつもは手厳しい各環境NGOも、化石燃料や石炭の文言が曲がりなりにも入ったことを「歴史的」と評価する向きが多い。 同じ日、COP26の結果に関する環境省の発表資料には石炭はおろか、化石燃料の文字もない。この点について記者会見で聞かれた山口大臣は「“今世紀半ばでの温室効果ガス実質排出ゼロ及びその経過点である 2030年に向けて野心的な緩和策、適応策を締約国に求める内容となっている“という文に内包されている」と説明。「明示的に記載していないというのは別に他意はない」とした。しかし会合でキーワードとなった単語の不在が、却って際立つことになった。 ■COP後の世界と日本 日本はCOP26の会場内パビリオンで、石炭とアンモニア混焼技術をアピールしていた。この技術が火力発電の二酸化炭素排出を下げることは確かだ。しかし島しょ国は今回「大量排出国が石炭を使い続けることは我々にとって死活問題」と訴えた。またEU代表は「ヨーロッパの富は石炭によってもたらされたが、このまま何もしなければ、その死も石炭によってもたらされる」と強調した。 “石炭”と“死”がひと続きで語られる、そんな空気の中で、環境NGOなどは日本の技術について「石炭の温存」いわば、延命措置だと批判しているという。そして、日本が欧米主導の潮流に取り残される可能性はないのか、という危惧も涌いてくる。南米ボリビア代表は、欧米が主導する脱炭素化の流れについて、こんな言い方をしている。 「我々はカーボン植民地主義の罠にはまることを拒否する」「先進国は気候変動に対応するための新たなゲームのルールを作り上げようとしている。資金と技術を持つ先進国だけが低炭素社会に移行でき、結果としてグローバル・サウスの国々の(先進国への)依存度を高めることになる」 先進国が自分たちの得意分野を活かす筋書きに沿ってグリーンエナジー関連産業や関連技術を売りつけ植民地化しようとしている、という主張だ。途上国は気候変動について欧米主導の新たな世界秩序が築かれつつあることをよく認識している。そこでは好むと好まざるとにかかわらず、石炭は悪者扱いされるだろう。日本は現状の石炭政策のままでいいのか、考えざるをえないのではないだろうか。 COP26の閉幕翌日の14日、グラスゴー中央駅でロンドン行きの列車に乗った。プラットフォームで同じ列車に乗ろうとしていたシャーマ議長と目が合った。「議長!」と声をかけると、軽く頷いた。安堵と疲労が入り混じったような表情だった。その日の夕方、ダウニング街10番地でのジョンソン首相の会見にシャーマ氏は同席していた。それもあって少し慌ただしさも漂っていたのか。スコットランドからロンドンへは4時間半の列車旅。産業革命で発展し、工場の排煙の黒さから「ブラック・カントリー」と呼ばれた地域のそばも通った。COP26の取材を終えた帰りだったからか、やたらと目についたのは、車窓を通り過ぎていくたくさんの風力発電機だった。 取材:ロンドン支局 あき場聖治(23日9:00)

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