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“用心棒”に撮影を遮られ・・・日大・田中理事長の絶対的な権力

日本大学の元理事らが逮捕・起訴された背任事件。取材を通じて見えてきたのは、日大トップの田中英寿理事長が支配する組織の「異様さ」と、「独裁」とも言える体制の弊害だった。取材の裏側を含めて、その実態を報告する。
■“用心棒”が理事長の撮影阻止 突如、VIPルームに入院 約7万人の学生数を誇る国内最大級の私立大、日本大学。16学部87学科の大学と19研究科の大学院に加え、学校法人として計17の附属小中高、4つの系列病院などを持ち、年間の予算規模は約2600億円に上る巨大組織だ。そのトップに13年間君臨する“日大のドン”、田中英寿理事長(74)の東京都内の自宅に、東京地検特捜部が家宅捜索に入ったのは9月8日だった。理事長から公の説明は一切なく、翌日から連日、自宅に多くの報道陣が詰めかけた。しかし、理事長が自宅を出入りする際には、“用心棒”の男たちが報道陣の前に立ちふさがった。ワイシャツやスーツ姿だが、体や腕は格闘家のように太い。「離れて!」などと叫んで記者やカメラマンを追い払い、雨も降っていないのに傘をさして撮影を遮った。この“バリケード”に守られる形で、理事長が無言のまま車に乗り込む状況が続いた。 理事長は家宅捜索から数日間、自宅を出入りしていたが、突如、千代田区の日大病院に入院した。関係者によると、理事長は日大病院のVIPルームに入室したという。その後、理事長は病院から大学の会合に出席するようになったが、出席の際には必ず、あの屈強な男たちが大学に現れ、カメラの前に立ちはだかり、レンズを手でふさぐなど撮影を妨害する行為を繰り返した。関係者によると、日大相撲部出身の日大子会社の職員らが動員されていたという。理事長が支配する組織の「異様さ」を感じずにはいられなかった。 ■恐怖心から取材拒む日大関係者 応じた人も「声だけ」「影なら」 理事長という絶対的な権力者を前に、当初、日大関係者の取材は難航した。「お帰り下さい」「答えられない」−。理事長への恐怖心からか、現役の教職員のもとを訪ねても追い返され、多くの人が取材を拒んだ。そんな中、「なぜここに来たんだ」と警戒しつつも、話をしてくれた幹部がいた。理事長に権力が集中する体制を批判し、「捜査には期待している」と話した。ただ、カメラでの取材は頑なに断られた。「バレたら自分の学部自体が危なくなる」とその幹部は語った。理事長が持つ強大な権力を悟った。 取材を続ける中、「声だけなら」とカメラ取材に応じてくれる日大関係者と出会った。元理事の井ノ口忠男被告(64)と、事件の舞台となった子会社「日大事業部」をよく知る人物だ。井ノ口被告と医療法人「錦秀会」前理事長の籔本雅巳被告(61)は10月、附属板橋病院の建て替え工事を巡り、自らの利益を図るため日大の資金約2億円を不正に流出させたとして逮捕・起訴された。この工事では、日大から委託を受けた日大事業部が業者の選定を担い、井ノ口被告は取締役としてその実権を握っていた。 この日大関係者によると、井ノ口被告は日大事業部で「自分の声は理事長の声である」と口癖のように言いふらしていた。「理事長と井ノ口被告はイコールだった」と別の関係者は語った。日大関係者は「井ノ口被告に異を唱えると、理事長の方に話がいって人事に直結する。左遷、恐怖政治だ」と恐れた。 井ノ口被告らは病院の医療機器の納入を巡っても、日大に約2億円の損害を与えたとして再び逮捕・起訴された。取材を進める中、内部事情に詳しい日大関係者と接触した。当初、カメラ取材には後ろ向きだったが、「事実を知ってほしい、影なら」と映像は影のみ、音声は加工することを条件に単独インタビューをすることができた。この日大関係者によると、井ノ口被告らはもともと病院側が検討や予算化をしていなかった海外メーカーの医療機器を購入するよう要求した。その際、井ノ口被告は「『理事長の了解を得ていること』を金看板にして了承を迫った」という。 ここでも使われた「理事長の威光」。 さらに、井ノ口被告の方針に反対した病院幹部が別の部署に異動となった後、井ノ口被告の希望通りの機器が導入されたこともわかった。 ■日大事業部は「資金流出の“装置”」「“打ち出の小槌”だった」 こうした日大関係者の証言からは、井ノ口被告が理事長の威光を借り、日大事業部を通じて、自らに有利な取引を進めていた実態が浮かび上がった。関係者によると、起訴された二つの取引で井ノ口被告個人に計数千万円が流出したとされる。日大事業部について検察幹部は取材に「資金流出の“装置”になっていた」と語り、ある日大関係者は「井ノ口被告にとって“打ち出の小槌”だった」と話した。 ■理事長独裁の弊害 出世目指して「ちゃんこ屋詣で」 責任問う声上がらず 今回の事件で明らかになったのは、理事長の「独裁」とも言える体制の弊害だ。田中氏が理事長に就任してから13年。日大教職員の間では「ちゃんこ屋詣で」という言葉が生まれた。理事長の妻が切り盛りする自宅兼ちゃんこ屋に、出世を目指す教職員らが足繁く通うことを意味する。井ノ口被告も「ちゃんこ屋詣で」で理事長との関係を深めたとされる。ある日大関係者は「ちゃんこ屋は、日大の人事異動を決めたり、事業に選定された業者が謝礼を渡したり、大学の決め事やグレーな商談が行われる場所だ」と証言。別の日大関係者は「恣意的な人事が横行した結果、理事長の周りにはイエスマンが集まり、下手なことが言えない雰囲気になっている」と語った。実際、事件の後、理事会で理事長の責任を問う声は上がっていない。それどころか、日大はいまだに被害届を出していない。関係者によると、理事長が「大学は損害を受けていない」という立場で被害届の提出に消極的だという。 一方、理事長を巡る捜査は続いている。関係者によると、特捜部が理事長の自宅を家宅捜索した際、1億円を超える現金が見つかった。井ノ口被告は特捜部の調べに「一連の取引のお礼として理事長側に約7千万円が渡った」と供述。特捜部は、理事長が多額の現金を受け取りながら税務申告をしていなかった可能性もあるとみて、国税当局と連携して調べている模様だ。一方、理事長側は現金の受け取りを否定し、自宅の現金については「理事長の役員報酬やちゃんこ屋の利益などで適切に財務処理をしている」と説明している。 ■大学は誰のもの? 学生は「学費が不正に使われてショック」「呆れる」 こうした状況に日大の学生は不信感を強めている。学生を取材すると、「自分たちの学費が不正に使われているのだと知ってショック」「怒りを通り越して呆れる」といった声が聞かれた。文部科学省の外郭団体「日本私立学校振興・共済事業団」は10月、事件を受けて、日大への補助金の交付を一旦、保留することを決めた。昨年度の交付額は約90億円。減額や不交付となれば、学生に影響が出ることも考えられる。学生が安心して大学に通えるよう、日大はしっかりと説明責任を果たし、組織の在り方を改め直すことが求められている。 社会部 司法クラブ検察担当 八角健太(21日09:00)

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