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「トラブルは解決していた」という学校側 東京町田・小6女児自殺を配布タブレットや共通パスワードのせいにするな!

私がいじめ問題に出会ったのは1996年にTBSに入社した直後、当時、ラジオの記者として「いじめ電話相談」を取材した頃だ。最初に記者として向き合ったテーマはいつまでも心のどこかに引っかかっているものだ。
その後、テレビの報道ディレクターとして様々な問題を取材してきたが、いつまでも抜本的な解決策が見出せずに放置されているようにすら見えた「いじめ問題」を親世代になって、この数年間、改めて取材し始め、メディアの一員として一石を投じられたらと考えるようになった。(TBS報道局「報道特集」ディレクター 川上敬二郎) ■東京町田・小6女児いじめ自殺 東京都町田市立の小学校に通っていた6年生の女子児童が去年11月「いじめを受けていた」などとする遺書を残し、自殺していたことが分かった。女児の学校では、子どもたちに一人一台の端末を配布する国の「GIGAスクール構想」に先立ち、タブレット端末が配備されていた。 いじめにはタブレット端末のチャット機能が使われた。遺族らが実施した同級生らへの聞き取り調査でも、チャット機能で「うざい」「きもい」「死んで」などと書き込まれていた、との証言があったという。女児の両親も、タブレット端末について「いじめの温床に大きくつながっているというふうに考えています」と会見で述べている。 学校によるタブレット端末の使用についての指導は不十分だった。チャット機能を使う際の個人のIDが類推しやすく、パスワードが全員共通の「123456789」だったことで、他人になりすまして端末を悪用することが可能になった。萩生田文科相(当時)も、運用を巡る「不適切と言わざるを得ない」点があったという。それでも一部のメディアが強調しているように、女児の自殺は「GIGAスクール構想」やタブレット端末、または共通パスワード「123456789」のせいだったのだろうか? 違和感を覚える。 確かにタブレット端末の使用を巡る問題は、女児自殺の最後の引き金になったのかもしれない。だが、そのせいだけにすることは到底できない。遺族らによる聞き取り調査では、女児に対し、小学4年生のころから悪口を言うなどのいじめがあったともいう。また亡くなる2か月前の「心のアンケート」でも、学校側はいじめの兆候を把握していた。しかし学校側は「トラブルは自殺の2か月前には解決していた」などと説明しているという。果たして学校は、適切に対応できていたのか? まだ分からないことも多いが、タブレット端末を介したいじめの前に何が起こっていたのか? 時間軸を長く設定して広い視野に立った調査が必要だ。いずれにしても今回、またしても学校は、いじめの芽の重大事態への深刻化を防げず、最悪の結末を迎えてしまった。 ■いじめは少し減り始めたかも・・・という調査報告 いじめ研究の泰斗、故・森田洋司(鳴門教育大学特任教授)は、「いじめ認知件数の多さは、教職員が子どもたちの命を守るためにきちんと認知し、寄り添い、対応した証だ」と述べて、2013年の「いじめ防止対策推進法」(以下「防止法」)に則る積極的ないじめ認知が、いじめ解消に向けた取り組みのスタートラインに立つことだと訴えていた。 今年7月、国立教育政策研究所(以下「国研」)から、これを裏づけるような調査報告があった。文科省のいじめ認知件数は過去最多を更新し続けているが、実際の発生件数は増えておらず、「防止法」の影響もあって、むしろ減っている可能性があることを示すものだった。 国研は1998年以降、大都市近郊のある地方都市をサンプルに、小学4年生以上の全ての小中学生(約4000人)を対象に、いじめの経験について尋ねてきた。まずは“暴力を伴わない被害”について。2018年度、小学6年生に過去3年の「仲間はずれ・無視・陰口」といった暴力を伴わない被害経験率を聞いたところ80%で、6年前より7%減った。加害経験は69%で17%減った。中学3年生の過去3年の被害経験率は68%(3%減)、加害経験率は64%(8%減)だった。国研は、“暴力を伴わない被害”は「防止法」の影響で小学校では減少傾向、中学校でも加害経験は減少傾向が見られたと分析している。 では“暴力を伴ういじめ”はどうか。「ひどくぶつかる・叩く・蹴る」では、小学6年生の過去3年の被害経験率は56%(6年前の4%減)、加害経験率は36%(8%減)だった。中学3年生の被害経験率は36%、加害経験率は25%で、ともに5%減った。国研は“暴力を伴ういじめ”についても「防止法」により小学校では減少傾向にあるが、中学校では「はっきりした傾向をうかがうことは困難」だったとしている。 ■「いじめ防止対策推進法」の効果が出てきた? 認知件数が増え続ける一方で、実際のいじめは減少傾向に入ったとすれば「防止法」の制定による積極的な認知への姿勢が、いじめの抑制に繋がりつつある可能性がある。国研も、「防止法」施行が教職員の意識を変化させた結果、【1】いじめに対する指導の変化による経験率等の減少、【2】いじめの認知に対する学校の姿勢の転換による認知件数の増加という2つの流れを生んだ、と考察。今後、いじめ認知件数の増加が教職員のさらなる意識・指導の変化につながり、なお一層の経験率等の減少をもたらすことも期待しているという。 国研の調査報告書は「いじめ認知件数」は「いじめ発生件数」ではない、とも記している。認知件数は学校が把握できた件数であって、実際に発生した数ではない、ということだ。認知件数の増加を過度に問題視せず、認知への積極姿勢によって、実際の発生が減ったり、“見逃し”が減ったりすることこそ重要な視点となる。やや減ったとはいえ、小学6年生の回答における過去3年での「仲間はずれ・無視・陰口」といった暴力を伴わない被害の経験率が80%など、その頻度には改めて驚かされる。しかし、これが教育現場の実態だ。いじめは大人の目から隠れて行われることも多い。これらを含めてどう見逃しを減らし、重大事態への深刻化を防ぐのか。そしてもっと根本的な「いじめ予防」についても、考えていく必要がある。 ■町田市のケースでも疑問視される「防止法」の遵守姿勢 女児が死亡した東京・町田市の小学校では、「防止法」に則ったいじめ防止対策は、どうだったのか。いじめの芽を見逃さない・・・と、積極的な認知や対応、そして予防教育は日常的に行われていたのだろうか。残念ながら、いくつかの事実から、疑問視せざるを得ない。 例えば「防止法」では、“いじめ重大事態”の定義を「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命・心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」とした上で、2017年のガイドラインでは「重大事態は事実関係が確定した段階で重大事態としての対応を開始するのではなく、“疑い”が生じた段階で調査を開始しなければならない」と強調している。 しかし町田市のケースでは、去年11月に女児が亡くなっているにもかかわらず、学校側が市の教育委員会に「重大事態」として報告したのは、今年2月に入ってからだった。市教委によると、遺族の“子どもたちには自殺を伝えないで調査してほしい”との意向があったためと言うが、遺族の代理人、金子春菜弁護士は「重大事態は明らかで法律違反だ」と述べている。また市教委に取材すると、この学校は9月の「心のアンケート」で明らかになったケースについても「いじめにつながる恐れのある行為」としつつ、「いじめ」としては認知していなかったことが分かった。市教委は、学校のこの対応についても調査していることを明らかにした。 ■忘れてはいけない重大事態の増加 繰り返すが、認知件数の増減はあくまでも参考にすぎない。ただその姿勢は問われる。大切なのは“見逃し”や重大事態への深刻化をどう防ぐかということだが、町田市の小学校が積極的に認知していたとは言えまい。自殺という、まさに重大事態が起こってしまった。国研の調査にある通り、全体的には実際のいじめが「防止法」の影響で、やや減っているとしても、「いじめ重大事態」は、2018(H30)年度は602件と、前年度の474件から3割も増えている。この最も憂慮すべき増加傾向を忘れてはいけない。「防止法」の趣旨の通り、被害者の声に丁寧に耳を傾けることを重視し、そこからスタートする対応が求められる。 (06日07:00)

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