「穴あきジーンズ」

パリに暮すと言っても、西のはずれのルイ・ヴィトン財団の美術館では、5カ月間ロンドンのコートールド・ギャラリーの有名な印象派の名画を借り出して展示中、東のはずれのラ・ヴィレットではエジプトのツタンカーメン秘宝展が開かれていて、演劇、音楽会、美食、話題を追い掛けていては限がない。モンマルトルに暮すと山から出ることは殆どないと言うし、セーヌ右岸の人は左岸に来ることは殆ど無い。左岸の人は右岸に行かない。西側のパリの人は東側に足を運ぶことは殆ど無く、フィルハーモニーという立派なコンサートホールがラ・ヴィレットに出来ても足が遠い。旅行者はパリの1区と8区で殆どそのパリ滞在を終えてしまう。わたくしはと言うと、同じ区内にあるパリ日本文化会館には、ご招待をいただくと足を運ぶが、それくらいのものである。ふわふわ出歩くと自分の仕事が進まないからだが、これは東京に暮しても同じことだろう。先日はパリに住むピアニストの菅野潤氏とロンドンに住むフルートの山形由美さん、東京の三味線の常磐津文字兵衛五世、三人の組み合わせのコンサートの夕べに、日本文化会館にでかけた。ドビュッシー、モーツァルト、リストとの組み合わせが色々あったが、筝曲の春の海を三種の楽器で組み合わせた演奏が、矢張り一番ピンと心に残った。日本文化会館では3ヵ月間続いたレオナール・フジタ(藤田嗣治)展が終わったばかり、4万人の入場者で、開館以来初めての入場行列が出来て、今迄の草間彌生展2万7千人が最高記録だったのを更新した。昨年のルイ・ヴィトン財団 美術館のロシア人が集めていたフランス近代美術の里帰り展120万人を越える記録にはとても遠いが、とにかく記録である。

2019年4月11日 赤木 曠児郎

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