「初夏の街角で絵を描いていて」

 山田洋次が1986年に日本中の映画賞をさらった「キネマの天地」という、松竹蒲田撮影所の時代を描いた喜劇がある。中井貴一の演じる映画監督助手が、平田満が演じるアカとして特高警察に追われている活動家の旧制高校時代の友人と出会い、訪ねて中井の下宿に逃げ込んでくる。いかにも教養の低そうな特高警察二人に踏み込まれ、書棚にあったマルクス兄弟喜劇映画全集の本を見て、マルクスのような本を読んで居ると、中井貴一まで同類で捕えられ、留置され、ボコボコに殴られて出てくる落ちの喜劇シーンがある。原作の井上ひさしにあるのか、監督脚本の山田洋次が入れたのか、山田洋次映画の中の、寅さんより何より最高のギャグだと記憶に残っている。政府、軍部の意向に反する者は国民の敵で「オイ、コラ」で捕まった時代が、日本に本当にあったのを知って居る。アメリカに敗けたお蔭で自由民主主義になり、平和な戦争を経験しない70年間を日本人は過ごしてこられたのである。今、テロリスト防止の目的で法案が出されたり、国家の兵士を作りあげるための教育勅語を復活など、国会議員が活躍して法令を作る毎に不安なのである。皆さんが選んだ選良の代議士さんが、日本が良くなるようにと立法を考えて下さるのであるが、一面良いようにと考えても、一面必ず不都合な反面が出てきて悪用も可能になる。本来はより単純化して出来るだけ少なくして、きっちりと皆が守れば良いことの筈である。不正を正当化する人に、法律、法令は有効な道具になるだけで、みんな未来が不安なのである。フランスでも、フランス革命で全てご破算にして、以来国民議会で出来事に対処して立法、40万件以上になるという。こんな膨大な数になると、中味は完全に矛盾していて、正反対のものも多く、どちらでも取り締まれる不可解な塊りになってしまい、それで今国民總選挙中の5年毎の新大統領や、憲法評議会があって、折々の大きな方針を決める役割になっている。来週は新大統領候補の予選で、来月送稿の時には新大統領が決まっている。どんな驚きが、待っているのだろうか?

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