「電子メール」

 フランス銀行総裁のご招待で、岡崎順子さんのピアノリサイタルに招かれる。1984年からパリに在住して、年一回ガボ-音楽ホールでの個人演奏会、教会堂での毎月定期コンサート、活躍の女性である。ルーブル美術館の近くに大きな一角を占めるフランス銀行本館は、17世紀頃からのこの辺りにあった貴族屋敷の幾つかが繋がって、大切に保存され出来上がっているから、普通の街並みのアッサリしているようで、貴重な建物である。地下室には完備の金庫で、フランス国貯蔵の金塊も全てこの足元にあると思うと、音の響きまで違う。昔の貴族屋敷に必要で、今ではパリに少数しか残っていないギャラリー(一番日本人に分かり易いのはベルサイユの鏡の間)も構内に備え、昔ツールーズ伯爵の屋敷だった部分に、長さ50メートル、巾7メートルの大広間、ギャラリーが残されている。同じ言葉で「画商」も「通路」も「ギャラリー」とフランス語だが、中味が同じでない。金箔と壁画で装飾された豪華な物で、この屋敷では黄金の間とよばれている。2008年日仏友好150周年記念の行事の1つにも、この大広間で岡崎さんのリサイタルだったが、時代がたっていて薄暗い感じだった。
それが修復改装工事され、完成記念お披露目の年末コンサートと8年ぶり、キンキラきんと明るくなり、金が200グラム使われたとのこと。風邪気味で遅く着き、一番後ろの壁際の席に案内されたので、何が幸いになるか分からない。咳もあまり気にしないで済むし、フランス装飾の技術を堪能しながら聞こえるピアノ曲は悪くない。今から半世紀も前、日本の国会図書館が改修されることになり、元は明治の時代にフランス、ベルサイユのトリアノン宮殿をお手本に、真似て建てられたものだから、改修工事調査団の方が来て、視察のお手伝いした。明治の昔、設計図を見て建てていたのだから、日本では本物の大理石材料などが、ふんだんに使われていて配線工事もままならないとのことだった。こちらの建物の外は石壁でも、内装は木や石膏で、ペンキとニスで塗って作ってありますよと言ったら、まさかと絶句された。
彫刻を乗せる台でも、円柱、扉でも実にペンキの技術で、大理石を描き出してあるのである。これにはまた別の話があって、日本のデパートがパリに出店をした時にも、日本からの装工部が設計図面を持ってきた。担当のフランス人建築家が見て、内部装工でこんなところに石の本物材料を使っても無駄だし、後で困るよと言ったが、日本側の回答は「一流デパートが、そんな安物作りの誤魔化しは出来ません」で揉めて、バブルの良き時代だった。そんな思いで壁や天井を眺めていたら、筆使い「上手いなー」と演奏中飽きない。コンサートの後のパーティには、続きの執務サロンが数室開放されて、シャンペン片手に壁には、今度は真物のフラゴナールの大作、ブッシェの裸婦、ルーブル美術館で今年大展覧会があったばかりのユーベール・ロベールの大作風景、ゴブラン織り、18世紀美術の美術館顔負けの作品群で、ゆっくり堪能。フランスは凄いなーと、この一夜は圧倒された。

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