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虫明焼作家

黒井 博史さん

2020年4月13日(月)

——夢をお聞かせください。

黒井:虫明焼の伝統を守りながら、新しい作品を作り出したいです。

——江戸時代から岡山に伝わるとされる陶芸「虫明焼」を今に受け継ぎ、作品づくりに取り組んでおられます。虫明焼の魅力について教えてください。

黒井:代表的な虫明焼というのは、天然の松の灰を基調とした灰釉を使っています。若草色やびわ色というおとなしい色調ですが、そこが最大の魅力とされていて、そのわびた風情は飽きがこないと言われています。
また、虫明焼は京焼の流れをくんだ焼物ですので、さまざまな釉薬を研究していろいろな色合いを出したり、ろくろで成形したものを面取りしたり稜線を作ってみたりと、フォルムにこだわって制作しています。表現の幅が広いという意味からも非常に魅力的であり、新しい可能性を引き出せるのではないかと考えています。

——長い歴史がありますが、どんな方に愛されてきたのでしょうか。

黒井:もともとは、岡山藩の伊木三猿斎という大茶人が京都から陶工を呼び寄せて焼かせたお庭窯として発展した経緯があり、茶陶ということでお茶の世界では非常に知名度が高く、愛好家が多いという特徴があります。

——茶道具にもいろいろありますが、虫明焼はどんなものに多く使われているのでしょうか。

黒井:やはりお茶碗が一番人気があります。季節の絵柄のものとか、虫明焼の特徴でもある無地でほんのりとした色調のものや、粗土を使った土味と虫明のおとなしい釉薬とを組み合わせたものが好まれるようで、長く愛好されていると思います。

——作品を拝見しますと、口が当たるところがすごく薄いですね。

黒井:備前焼と比べると、端正な薄づくりというのが虫明焼の特徴の一つでもあります。そういうことから考えると、この口当たりや手に持ったときの感触というものが、茶人の方から好まれている理由ではないかと思います。

——その虫明焼をどのように発展させていこうと考えておられるのでしょうか。

黒井:虫明焼は300年ほどの歴史がありますので、当然、古き良き伝統というものを守りながらも、自分らしい個性を出した作品を作っていきたいと思っています。
最近では、ANAクラウンプラザホテル岡山のフレンチのフルコース料理とのコラボレーション企画がありました。そこでは自分がデザインして作った器に料理を盛って、見て楽しんでもらえるようになりました。今まではこのように使って楽しんでもらうことがなかなかできなかったので、気軽に接していただき、若い世代の人にも興味を持ってもらえる機会になりました。
そうした中で、自分の個性を考え、青いキラキラした釉薬とか透明の釉薬、昔からある鉄釉と言われる黒とか茶色の釉薬を使って、私独自の動きのある幾何学文様を描いた作品に取り組んでいます。これまでの虫明のおとなしいものに加えて、派手さのある新しいものも少しずつ取り入れながら、昔ながらの虫明と自分らしい新しい虫明の伝統を作っていきたいと思っています。

——フレンチとのコラボ企画では、どんな工夫をされたのでしょうか。

黒井:和の器に洋の料理を載せるということで、今までに経験したことのないチャレンジでもありました。自分が実際にその器を作るとなった時はいろいろと頭を悩ませたのですが、使う人がどんなふうに見て、どう使えば楽しんでもらえるのかということを考えました。そして、料理を主役にもり立てながらも、料理の脇役として自分の作品の絵柄とか色合いとかフォルムというものをいくらかでも主張できたらいいなと考えて作りました。

——作品のアイデアはどのようにして生まれるのでしょうか。

黒井:アイデアについては日々考えているのですが、簡単に出てくるものではありません。悩みながらもふっとしたときに、例えば遊んだりして気分転換したときにアイデアが浮かぶこともあります。今私が推し進めている幾何学文様も、いろいろとバージョンを変えながら、色目や文様のタッチを変えることで雰囲気が変わってきます。いろいろと発展させていく要素がありますから、それらをうまく自分の中でアレンジしながら、一般には敷居が高いと考えられがちな焼物に、少しでも興味を持ってもらえるように変えていきたいと思っています。

——新しい魅力を持った虫明焼について、お客様の反応はいかがでしょうか。

黒井:新しい取り組みをすることによって、お客さんが「これは今までなかった作品だね」とか「お父さんが作ったことのないような作品だね」と言われると、自分の中で「よし、やった」という手応えを強く感じます。
また、新しいことをやることによって、昔の作品を見慣れている人からは「今までの虫明焼と違う」「これは虫明焼ではないのではないか」と思われがちですが、それは虫明焼に興味を持ってもらう一つの布石です。それを足掛かりにして、昔のものと新しいものの両方を見てもらうことによって、虫明の魅力をもっと広く感じてもらいたいと思っています。

——改めて、今後の方針をお聞かせください。

黒井:古き良き伝統を守りながら、自分らしい個性を追求した作品を生み出して、新しい虫明焼の伝統を作りたいです。

黒井 博史(くろい・ひろし)

陶芸作家

昭和49(1974)年岡山市生まれ。松山大学経済学部卒業。平成10(1998)年山陽放送入社。営業部、報道部(記者)勤務。平成18(2006)年父・黒井千左のもとで作陶に入る。平成22(2010)年第57回日本伝統工芸展初入選(入選4回)。平成30(2018)年日本工芸会正会員認定、第61回日本伝統工芸中国支部展岡山県知事賞受賞(以降、2019年岡山市長賞、2020年岡山県知事賞)、虫明焼×ANAクラウンプラザホテル岡山フレンチフルコースディナーの器(全8種)デザイン・制作。