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地域の未来が見えてくるインタビュー番組。
会社づくり、人づくり、そして街づくり…エリアのトップの夢、経営ビジョンに迫ります。

前回の放送

瀬戸内市立美術館

岸本員臣 館長

2019年12月9日(月)

——夢を一言でお聞かせください。

岸本:今後とも皆さんに感動を与える美術館を目指してまいります。

——2010年のオープン以来、館長自ら幅広いジャンルの展覧会を企画しておられますが、まずはこちらの美術館の特徴を教えてください。

岸本:来館者に「感動」を与えるということを大前提として、ほかではどこもやっていない企画を目指しています。来館者の想定通りではなく、どこか突き抜けた部分がないと感動は生まれませんから、「瀬戸内市立美術館に行ったら想定外のことがあった」と言ってもらえる部分をどこかに取り入れたいですし、今後もそれを貫いていくつもりです。
2019年9月に超絶技巧の現代作品を様々なジャンルから集めた「—驚愕— 超絶の世界展」を開催しましたが、これは全く無名の7名の作家によるものでした。にもかかわらず、来館者からは「こんな世界とは思わなかった」と驚きの声をいただき、アンケートの数も通常の3~4倍ありました。今後もこうした、魅力的だけれどまだ誰も知らない作品、でも「行ってみたらすごかった」と思えるような展覧会を目指して企画を立てていきたい。そのためにも、面白い企画につながる作家の方がいないか、常にアンテナを張って探しているところです。

——ヒット企画がたくさん生まれています。

岸本:美術館というと「高尚な」といったイメージがあるかもしれませんが、高尚なだけでは人は来てくれません。そこで、幅広い年代の方に興味を持ってもらえるものを対象にし、また経費をおさえるにはどうしたらいいかなど、いろいろな条件を組み合わせて考え、私たちなりに工夫した結果として、独自の企画につながっているのだと思います。
たとえば経費の面ですと、通常、美術展を開催するには、美術品の運送料と保険代が経費の大部分を占めます。この経費を抑えながら何かできないだろかという発想から、詩の世界を扱えないかと思いつきました。そこで最初に企画したのが「童謡詩人 金子みすゞ展」(2011年6~7月)で、たくさんの方が来場されました。ほかにも、来館者が少なくなりがちな冬の時期に開催することで作品の貸出費用をおさえたり、保険代を節約するために点数も減らすなど工夫して、なんとか結果につなげています。

——開館された10年前と比べて、美術館を訪れる人のニーズに変化はあるでしょうか。

岸本:今やインターネットの進出が著しく、価値観も変わってきていますが、一方で「美を追求する」「感動を与える」といった部分は絶対に変わりません。ただし、流行は取り入れていかないといけませんから、常に皆さんが何を見たいのかとアンテナを張っています。
たとえば「開館5周年 長渕剛 詩画展2015」(2015年7~8月)では、当時富士山での10万人オールナイト・ライブ(8月22日)が控えていて、その期間に合わせて開催することで、コンサートの宣伝部分で美術館の展覧会についても触れてもらい、全国規模で人が集まることにつながりました。また、「ダウン症の女流書家 金澤翔子展 —魂の世界—」(2012年6月1~10日)も同様に、彼女が題字を書いた大河ドラマの放送に合わせて開催しています。その時にやらないと意味がないので、瞬発力の必要な企画ですが、これはと決めたことには集中して頑張っています。

——開催中の「驚愕の超写実展」についてお聞かせください。

岸本:「特別展 驚愕の超写実展 ホキ美術館 × MEAM(ヨーロッパ近代美術館)」では、日本初の写実絵画専門の美術館である千葉市の「ホキ美術館」と、スペイン・バルセロナのヨーロッパ近代美術館(MEAM)所蔵の写実絵画計57点を展示しています。日本ではこれまで抽象画の評価が高く、具象(写実)はずっと低い位置づけでした。しかし人間の根底には、単純に「美しいものが見たい」「きれいなものが見たい」という気持ちがあります。それが今ようやくブームとして現れて来ていて、「超写実展」の開催につながっています。もちろん、この写実の流れもいつまでも続くわけではないので、そこを見極めて、次の手を打っていかなくてはいけません。ですから、常に2~3年後を見越して、次の展覧会の企画を考えています。

——この展覧会の見どころは。

岸本:「写実」というと、皆さん、「写真のような」という言葉が出てくるのですが、では実際に写真と比べてみてください、ということを伝えたいです。例えば、5人がリンゴを撮影したとしても、どれも同じような写真になるはずです。ところが5人の画家がリンゴを描けば、描かれたリンゴはすべて違います。題材と作品の間に人間が介在するとき、作家のスキルや個性が現れ、その「人間」の部分に皆さんが感動するのです。今回の写実展ではいろいろな作家が写実に取り組んでいますが、作風はそれぞれ全く違うものになっていますから、そこを見ていただければ感動があると思います。

——これからの美術館の姿はどのようにイメージされていますか。

岸本:今回の写実展もそうなのですが、私はとにかく子どもたちに見てほしいと思っています。これらの絵を見れば、絶対に子どもたちも「これはすごい」と思うはずなんです。最初はただ「すごい」と感じるだけでいいのですが、次に「これはどうやって描いたのだろうか」と一歩進んでいく。そうやって少しずつ上のステージに進んでいくようになると、将来、子どもたちの中から世界に通用するようなアーティストが出てくるのではないか。私はそれをずっと夢として描いています。そのためには誰かが種まきをしないといけません。それを今やっていて、今後もそれを柱としていきたいと考えています。

——この地域の中で、美術館はどんな存在でありたいと考えておられますか。

岸本:ここは公的な美術館です。私たちの工夫でたくさんのお客様にこの美術館に来ていただければ、牛窓の町の宣伝にもなります。周辺で食事をしたり観光したりしてお金を使っていただけますから、それが地域への還元につながるのではないかと考えています。

——今後の夢をお聞かせください。

岸本:この美術館に来れば必ず感動があるという美術館を目指してまいります。特に子どもが目を輝かせて来られるような美術館でありたいと思っています。

岸本 員臣(きしもと かずおみ)

瀬戸内市立美術館館長

昭和24(1949)年岡山市生まれ。昭和48(1973)年岡山大学法文学部を卒業後、天満屋に入社して美術部門に配属。以来37年間、美術畑一筋で勤務。退職後、平成の大合併に伴い誕生した瀬戸内市立美術館の初代館長に就任。従来の絵画や工芸、彫刻などの展示にとどまらず、人形や詩、マンガなど多岐にわたるユニークなテーマの企画展を開催。企画力と発信力を持った美術館の館長として活動している。