「緑の季節・印象派の島」

 秋口9月に、パリのグランパレ国立ギャラリーで、大モネ展が開かれるそうで、5ヶ月前から時間決め予約の入場チケットの前売りが始まった。今では大きな企画展となると、多くの人が押しかけて長蛇の行列、前売りも珍しくなくなった。大ルーブル美術館など、年間700万人の入場者、何時行ってもチケット売り場に行列で、並ばされるのである。通ってくれているモデルさんの一人が郊外に引越し、有名なところなので案内してもらって出かけた。パリからスグ西隣り、郊外通勤電車で4駅のところだが、大きなマロニエの木に白い花満開。セーヌ河の中洲島で19世紀後半、印象派の画家たちが好んで描いた場所。20世紀初頭のフォービズムも発祥のシャトゥー・クロアシーの町である。閑静な庭付きの、大きな屋敷が並ぶベッドタウンの別天地で、住人は観光地で有名になるのを好まない。セーヌ河沿いの散歩道が、印象派の島として知られる。印象派の絵というのは、日本では光の分析をして、黒を捨て、色の点々のタッチでと、理論で習ってしまうが、描いた場所に立つと本当に自然を生き生きと描けたから、絵描きが感心し、取り入れたのだと分かる。当時の展覧会や絵画教育では、景色は古来こう描くものだと決まっていたのだが、あの自然の空気を生き生きと掴まえるには、こちらに敵はないと広まった。フランスのセーヌ河下流の、その風土を真面目な写生に取り組んでいたのとは、現場に立たないと理解できない。ルノアールが3年通って住み、今はワシントンにある有名な「舟遊びをする人たちの昼食」を描いた、「フルネーズ」のレストランもそのまま、記念美術館もある。モネ、ピサロ、シスレー、ルノアールなどの描いた場所を丹念にたどった、この県だけの分厚いガイドブックまで出て、こんな近い郊外とは素晴らしい。20人ばかり、アメリカのマイアミから来たと言うアマチュア画家の団体も、楽しそうに美術史の現場で絵を描いていた。

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