サンノアの風車(1)
 

「夏休み」

 どう上手にバカンスを過ごすか、見せびらかすのが社会的ステータスで、職場の上役がケチに働いていたりすると、部下に馬鹿にされ軽蔑され、始末がつかなくなってしまうし、ラッシュになって押しかけるから、650キロのハイウェーの渋滞、つまり東京から大阪までノロノロ運転に相当する。行った先もラッシュなので、空になった都会でゆっくり過ごし、労働者が10月になって職場に戻ってきたら、また出掛けるのが現代の本当の金持ちに思えるが、この考え方は世間離れしていて、とにかく皆で出掛けて、見せびらかしごっこに参加しなければ、人並みでないのである。バカンスもしなければ、社交界のアウトローだし、夫の資格はなく夫婦危機にも到る。劇場も、催しも何とかフェスチバル、地方振興に開かれ、アーチストも田舎に散って暮らしていて、都会で静かに展覧会出品制作中なんていうと、まあマイナーなイメージの作家になる。
 日本人は休暇を、平常出来ない大旅行、海外旅行などにと考えるのだけれど、大旅行は春休みとか、冬休みにまた別なので、夏はとにかく大自然に触れ、田園の中で暮らすのが大目的で、田舎に自分の館、セカンドハウスがあって、そこで暮らしている。
 平常のビジネスは都会で集まり、パリの中のことは自分の仕事場と、住まいの周りのことしか知らないで往復、よその地区などには間違っても足を運ぶこともなく、休日や余裕の時間が出来ると、すぐ自分の田舎に直結しているのが、パリジャンである。

2006年8月5日 赤木 曠児郎  
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