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「死ぬか手術か、私は生きたかった」世界初!“遺伝子操作”したブタの心臓を人間に移植・・・専門家「急速に広がる可能性も」

■「死ぬか手術を受けるか、私は生きたかった」
冒頭の写真は、アメリカ・メリーランド大学が1月7日に行った心臓移植手術の様子。全世界が注目した手術と言えるかもしれない。移植された臓器が人間ではなく「ブタ」の心臓だったからだ。臓器移植を行うと体は新たな臓器を「異物」と認識し、排除しようとする「拒絶反応」を起こす。今回メリーランド大学が行った手術は、こうした拒絶反応を防ぐため事前に遺伝子操作を行った「ブタ」の心臓が用いられた。大学によると「世界初の試み」だ。 「死ぬか手術を受けるか、どちらかでした。私は生きたかったのです」 大学によると、手術を受けた57歳のデビッド・ベネットさんは手術前に「一か八かの最後の選択肢」だと心境を述べていたという。末期の心臓病を患うベネットさんは症状が重く、通常の心臓移植手術を受けられる対象ではない。そのため今回、実験的な意味合いもある手術に協力することを決断したのだった。10日の時点で手術から3日が経過しているが今のところ状態は良好で、大学は注意深く今後の推移を見守るとしている。 「治療を継続するより、より良い選択肢を提供できたと考えたい」手術チームの1人、グリフィス医師は手術の意義をこう語っている。 心臓移植などを専門とする大阪大学大学院の宮川繁教授によると、ブタなど動物から人間への臓器移植は「異種移植」のため本来「免疫拒絶反応」が強いという。宮川教授は「どういうところを遺伝子操作したか詳細は分からない」と前置きしつつ「ブタの胎生期にDNAを置き換える作業を行っていると思う。拒絶反応を引き起こす多くの要因を遺伝子操作でつぶしていった結果、人になじむようなブタに作り替えられているのが今回の“売り”だろう」と解説した。 ただ「急性期と呼ばれる3日を過ぎた後も長期的にどれくらい機能するのか、慎重に科学的に見極める必要がある」として、手術の成果を判断するためには一定程度の時間が必要との認識も示した。 ■「人からの移植と同等の成果なら急速に広がる可能性」 ブタを移植医療に活用できないかという研究は世界的に行われ、昨年の秋にはニューヨーク大学でブタの腎臓を人に移植する手術が実施されている。大阪大学でも研究は約20年続けられてきたというが、宮川教授は「倫理観、技術的なところで越えられないハードルもあった。それをアメリカは越えてきた」と評した。 今回の手術は昨年末、アメリカのFDA(食品医薬品局)から許可を受けている。教授は「FDAが認めているので法整備、倫理的な問題はクリアしていると思う」としたうえで「経過をたどり、人から人への心臓移植に比べて良い、あるいは同等の結果となった場合には、こうした手術がアメリカで急速に広がる可能性がある」との見方を示した。日本についても、アメリカのデータを参考にすることなどを経て、将来的には取り入れられる可能性もあるだろう、という見方だった。 ■背景に深刻な“臓器不足”、日本は「5年待ち」 今回の手術で期待されるのが、移植用臓器の不足という深刻な問題の解消だ。アメリカでは約11万人の患者が臓器提供を待機しているが、毎年6000人が移植を受ける前に死亡しているという。また「日本臓器提供ネットワーク」によると、日本でも臓器移植を待つ人の2%から3%しか提供を受けられていない。 移植医療は新型コロナウイルスの影響も受けている。感染拡大後の2020年、2021年とも日本国内での臓器提供件数は減少傾向にある。感染拡大に伴う医療体制のひっ迫などにより、臓器提供の希望者が提供を受けるまでの待機期間もさらに長期化している。宮川教授は「コロナの前も3年、4年待たなければいけなかったが、コロナ後はどんどん待機期間が長くなっている。5年くらい待たなければいけない。その間に患者が亡くなっているというのが日本の移植医療の現状だ」と指摘した。 今回の移植手術は、人に移植されたブタの臓器が長期間機能するのかという点とともに、人の“死生観”などデリケートな問題への影響も指摘されるかもしれない。だが臓器不足が続く中で「異種の動物であっても、心臓が提供される可能性が出てくることは移植医療にとって大きな進歩になる可能性がある」という宮川教授の言葉には納得する。移植を待つ人に選択肢がない現状は改善されるべきだろう。 TBSテレビ報道局外信部井上 遊介(12日14:00)

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