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「人身売買みたいな形で連れて来られる」地中海“移民”救助船で働く日本人助産師が見たもの

■100人がひしめく木造船
青い水平線が広がる地中海。波間に小さな小さな木造船が漂っている。船の上に100人近い人がひしめき合っているのが分かる。 「私たちは国際NGOの救助船の乗組員です。みんな座って!」 木造船に近づいた救助船から、乗っている人たちに座るよう求める声が飛んだ。多くの人が立ったままだと小船がバランスを崩し、転覆するおそれがある。次々と救命胴衣が手渡されていく。これは2021年6月に撮影された映像の一場面。船に乗っていたのは北アフリカからヨーロッパを目指す移民希望者たちだ。 地中海では、こうした粗末な木造船やゴムボートに大勢で乗り込みヨーロッパを目指す人が後を絶たない。海を渡りきれず、子どもを含む多くの命が失われた事故もこれまで何度も伝えられている。 冒頭の救助船は国際NGO「国境なき医師団」の『ジオ・バレンツ号』。2021年5月から地中海で捜索、救助活動を行っている。この船には日本人が1人乗っている。小島毬奈さん37歳、助産師だ。 小島さんはアフリカ・南スーダンなどの難民キャンプでも活動してきた難民支援のスペシャリストだ。地中海の救助船に乗るのは他のNGOでの活動も含め今回で5回目だという。 ■餌食にされる移民希望者たち 助産師の小島さんは、救助された妊婦や新生児のケアを主に担当する。船上での出産介助を行ったこともある。看護師として“移民船”特有とも言える「火傷」の処置をすることも多いという。 小さな船には100人近くがぎゅうぎゅうの状態で乗り込む。エンジンの近くに座ることになると、漏れ出たガソリンと塩水が混ざった液体に長く触れる。狭い空間では体勢を変えることもままならない。このため下半身に「化学火傷」を負う人も多く、皮膚の一部が剥がれ落ちてしまった人もいたそうだ。 また救助された人たちへの聞き取りから、移民希望者が食い物にされる実態も多く知った。 「大体の人は『リビアにいい仕事があるから来なよ』と騙され、人身売買みたいな形で連れて来られるんです。ほぼ奴隷のように働かされ、女の人だったら売春などを強要されます」 小島さんの乗った救助船は、北アフリカのリビアとチュニジア沖の海域で活動する。リビアは、紛争や貧困から逃れようとアフリカ諸国や中東からヨーロッパを目指す移民たちの経由地となってきた。しかし現地には悪質な密航業者がはびこり、彼らはその餌食となる。性暴力の被害に遭う女性は多く、渡航費用を稼ぐためとして過酷な労働を強要されるケースも後を絶たないという。 中東シリアの内戦が激化し100万人を超える移民がヨーロッパに押し寄せた2015年をピークに地中海を渡ってくる人の数自体は減ってはいる。それでもリビアで人権侵害が横行する実態には変わりはないようだ。ある移民は小島さんに、リビアでの日々を「地獄だった」と語っていた。救助された多くの人たちがトラウマを抱え、心のケアが必要となるケースもある。 そのリビアは10年前のカダフィ政権の崩壊以後、政情不安が続く。2019年には内戦の巻き添えで移民収容施設が空爆を受け、多くの犠牲者が出た。2020年に停戦合意がなされ、12月下旬には暫定政権下で大統領選挙が行われることになっていたが、混乱は収まらず1か月後に延期された。「国境なき医師団」は、移民・難民にとって「リビアは無法国家」だと批判している。 ■移民受け入れをめぐる変化 2016年から地中海の救助船で活動する小島さんは、2021年にヨーロッパ側の変化を感じたと話す。 「すごくネガティブというか、あまり協力的ではなく時間がかかってしまいました。海の上で7日間、救助した410人と港が提供されるまで待たなきゃいけませんでした」 救助船がEU(欧州連合)加盟国の港に上陸する際、許可が降りるのに時間がかかるようになった。イタリアやマルタの当局は年々、移民の受け入れに消極的になっている。また入港後に、港湾当局から船の欠陥を指摘されて1か月ほど出港を差し止められたこともあった。 「政治的な意味合いも込めて、私たちの船は安全ではないとの判断が下された」小島さんはこう指摘する。 NGOの救助船の出港を制限することで移民受け入れを減らしたい思惑がうかがえる。また国連人権高等弁務官事務所の報告書によると、EU加盟国の沿岸警備当局が救助した移民をリビアに引き渡すケースもあるという。 ■終わらない「移民危機」 ローマ教皇フランシスコは、2015年には一日に1000人近い移民が上陸したというギリシャのレスボス島にある移民収容施設を12月に視察した。その際の演説で、かつて豊かな文明を育んだはずの地中海が今は「文明が難破している」状態にあると表現した。そして移民問題は北アフリカや中東、ヨーロッパだけではない、世界全体の問題だと訴えている。多くの分野で外国人労働力に頼る日本にとっても無縁ではないだろう。 国連の「国際移住機関」のデータによると、2016年には約5100人が地中海で死亡もしくは行方不明となっている。その後、減少傾向にはあるものの2021年の死者・行方不明者は1800人あまりで、前年から400人ほど増えている。 また地中海ではないが、11月下旬にはフランスからイギリスへの密航を図った移民の乗るゴムボートがドーバー海峡で沈没、少なくとも27人が死亡する事故が起きた。近年、この海峡を渡る不法移民は増えているという。ロイター通信は、移民たちが携帯電話で海上から救助を求めた通報に「英仏両当局が取り合わなかった」として支援団体が告訴したと伝えている。 「100人でも10万人でも救助を必要としている人がいる限り、この活動を続けるべき、活動する意味はある」「船の上で助産師として働くことが自分にできることだと思うので、オファーがある限り続けていく」 移民にとって厳しい政治状況が直ちに改善されることはなく、困難は続くだろう。そんな中で“船上の助産師”小島さんの言葉は力強かった。 TBSテレビ報道局外信部鈴木尚子(31日12:55)

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