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【中編】ドキュメントCOP26 『石炭』をめぐる表現はこうして弱まっていった

 ■「段階的廃止」が「段階的削減」に
気候変動対策についての国連の会議、COP26。猛暑や豪雨、干ばつなど世界各地でいっそうの異常気象が伝えられる中、今回の会議で国際社会がどのようなメッセージを打ち出せるのか注目されてきた。 会議“延長戦”となった11月13日、成果文書のとりまとめに向けた全体会合が行われた。世界最大の温室効果ガス排出国、中国は焦点の石炭消費をめぐり当初案の「段階的な廃止」から「段階的な削減」という言葉に変更せよ、と注文をつけた。中国と、それに次ぐ世界第2位の排出国アメリカはCOP26の期間中に双方の気候問題担当特使が会談、この表現を用いた共同宣言が発表されている。 また世界第3位の排出国で石炭への依存度も高いインドは「化石燃料とその使用は、世界の一部に高い生活水準と富をもたらした」「この観点から途上国も化石燃料を使用する権利がある」と主張した。石炭を狙いうちするような文言への不満もうかがわせた。 議論の行方を危惧する声も出る中、全体会合はいったん休会。しかし交渉担当者らは議場内に残り、交渉が続いた。 再びケリー特使がインドのヤダフ環境相と協議する。シャーマ議長は動き回り、インドや中国以外の様々な国々に対して説明をしているようだった。 全体会合が再開され、シャーマ議長は「正式な採択に入る」と宣言、ハンマーを手にした。すかさず、再び中国が発言をする。 「インド、中国、南アフリカ、ボリビアなど途上国の懸念を受けて各方面と協議し、建設的な提案を議長に提出しました」 続いてインドが焦点の石炭をめぐる条文のさらなる変更案を読み上げた。 「排出削減措置が取られていない石炭火力」について中国の要求通り「段階的廃止」が「段階的削減」に書き換えられたことが分かった瞬間だった。「努力」という言葉が盛り込まれて切迫度が薄まったように感じる文言は、一層、薄味になった。 以下、その英文と訳文だ。貧困層への支援の必要性も含まれていた。 …including accelerating efforts towards the <phasedown> of unabated coal power and phase-out of inefficient fossil fuel subsidies, while <providing targeted support to the poorest and most vulnerable in line with national circumstances> and recognizing the need for support towards a just transition …これにはクリーン発電とエネルギー効率向上の手段を急速に拡大することや、排出削減措置がとられていない石炭火力発電の<段階的削減>および化石燃料への非効率的な補助金の段階的廃止を加速させる努力も含み、同時に<それぞれの国の事情に合わせ貧困層に絞った支援を供給し>公正な移行への支援の必要性を認識する※カッコ内は筆者 ■置き去りにされた国々の怒り 「みなさん、賛同できますでしょうか」シャーマ議長が議場に問うた。この展開に、超大国同士がプロセスを無視し“握った”と感じた国々から、次々に強い反発の声が上がった。 スイス代表は「大きな失望」を表明した。 「我々が納得していた石炭と化石燃料への補助金についての文言が、不透明なプロセスによってさらに薄められました」「はっきり申し上げますが、石炭火力と化石燃料への補助金は、段階的削減ではなく段階的廃止が必要なのです」「COP26から手ぶらで帰る危険を冒したくないので今回の変更に反対はしませんが、決定プロセスと文言の変更そのものの双方に落胆しています。この変更によって1.5℃目標(世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑える目標)に近づくどころか、より困難になります」 拍手が会場から沸いた。それは30秒間続いた。 ヨーロッパの小国、リヒテンシュタインの代表の言葉も怒気を帯びていた。 「このCOPが透明性の高い、インクルージブなプロセスではなかったことに深く失望しています。小国は議長国との1対1の協議をする機会が公平に与えられませんでした」「化石燃料、特に石炭についての文言を弱めることは野心的でもないし1.5℃目標にも沿っていないと考えます。ただ全体の利益のため、この苦い薬を飲まなければならないのでしょう」と批判した。 議長国イギリスが繰り返し「野心的に」「1.5℃目標を保持し続ける」と言っていたことへの当てつけだった。 メキシコは「脇に追いやられた」と悔しさを隠さなかった。 「全ての国が条文に何かしらの懸念をそれぞれ持っています。でも再交渉はできない、と言われていたのです」「メキシコは人権に関する文言はもっと強化されるべきだと考えていました。そうした声は採用されないのに、他の国は我々が約束された表現をさらに薄めることができる。そのことに非常に非常に、がっかりしています」 海面上昇の危機に直面するマーシャル諸島。落ち着いた口調だったが、静かな怒りに満ちていた。 「石炭についてのコミットメントはこのパッケージの中で希望の輝きでした。この会合から、誇りとともに持ち帰ることができるものの一つだと思っていました。その輝きが陰っていくのを見て深く傷ついています」「我々はこの変更を不承不承受け入れます。その唯一の理由、唯一、と強調しますがこのパッケージには我が国民にとって将来の生命線となる重要な要素が含まれているからです」 南太平洋の島国フィジーは「今回のやり方に驚愕しただけでなく、本当に落胆した」として、こう続けた。 「1.5℃目標について述べている他の条文と一貫性がありません」「段階的削減をしているのかどうか、それをどう測定するのか、その方法も何もない。これは非常に重要なポイントであり、覚えておかねばならないことです」「我々のような海抜の低い小国は、他の国が排出を削減してくれるのを信じるしかないのですから」 集中砲火を受けたシャーマ議長は神妙な表情でこう述べた。 「このような展開になったことについて謝罪したいと思います。深くお詫びします。深い落胆も理解します。でも皆さんお分かりのように、このパッケージを守ることは死活的に重要です…」 ここまで言って、声を詰まらせた。鼻に手をやる。言葉が出ない。議場では拍手も始まり、広がっていった。その後COP26の成果文書である「グラスゴー気候協定」が満場一致で採択された。そのプロセスは最後の最後で禍根を残した。 取材:ロンドン支局 あき場聖治(23日9:00)

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