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【前編】ドキュメントCOP26 『石炭』をめぐる表現はこうして弱まっていった

■刻々と変わる「石炭」めぐる表現
「Coal、Cars、Cash、Trees!」(石炭、車、現金、木) イギリスのジョンソン首相は自国で11月開かれた気候変動対策を話し合う国連の会議COP26を前にした数か月間、ことあるごとに、こう繰り返していた。この4つが温暖化対策におけるターゲットというわけだ。そしてイギリスはCOPの成果文書として初めて「石炭」「化石燃料」という言葉を入れた議長案を出してきた。タイムスタンプは現地時間10日午前5時51分。実際の条文の文言はこうだ。 Calls upon Parties to accelerate the phasing-out of coal and subsidies for fossil fuels 締約国に対し石炭と、化石燃料への補助金の段階的廃止を加速させるよう呼びかける シンプルとも言える表現は、あくまでたたき台として示したものだからだ。NGOなどからは歓迎する声も出る一方、「石炭」の文字が最終版まで生き残るかどうか疑問の声もあった。脱石炭に必ずしも前向きでない国も多いからだ。案の定、COP最終日の12日午前7時13分に示された新たな成果文書案では、そうした国々に配慮して条文はかなり長くなり、文言としては弱まっていた。 新たな案では“低排出エネルギー体制への移行”という文脈付けをした上で、段階的廃止を加速させる対象を「排出削減措置がとられていない石炭火力」「化石燃料への非効率的な補助金」と限定していた。 長くなった英文と和訳がこれだ。 Calls upon Parties to accelerate the development, deployment and dissemination of technologies and the adoption of policies for the transition towards low-emission energy systems, including by rapidly scaling up clean power generation and accelerating the phase out of <unabated coal power> and of <inefficient> subsidies for fossil fuels 締約国に対し、低排出エネルギー体制への移行に向けた技術開発・実践・普及および政策の採用を加速させるよう呼びかける。これにはクリーン発電を急速に拡大することや<排出削減措置がとられていない>石炭火力発電、および化石燃料への<非効率的な>補助金の段階的廃止を加速させることも含まれる※カッコ内は筆者 ここに登場する「排出削減措置がとられていない」石炭火力という表現は、過去のG7(主要7か国)やG20(主要20か国)会合での共同声明でも用いられた。合意した実績のある表現に戻された、ということになる。 これは日本政府にとって重要と言える。政府関係者は「日本は資源が少ない。他国との間に電力のやりとりができるインフラもない。安定的なエネルギー供給体制を確保するには石炭という選択肢を残しておかないといけない」と日本の立場を説明する。要するに排出削減措置をとりながら石炭を使い続けるというのが当面の方針なのだ。その一環として、アンモニアを石炭と一緒に燃やすことで二酸化炭素の排出量を削減するという技術を、石炭に依存するアジア諸国への輸出も含め追求している。 交渉関係者によれば、新たな文案の「排出削減措置がとられていない」という言葉が具体的にどんな状態を指すのかという議論は、COPではまだ行われてないという。つまりアンモニアと石炭を一緒に燃やすということも「排出削減措置」だと日本が“自己認定”すれば、この条文には引っかからないことになる。少なくとも今のところ。 「非効率的な補助金」という表現の背景にも複雑な事情がある。 既に2009年のG20ピッツバーグ・サミットの共同声明では同じ「非効率的な補助金の段階的廃止」という文言があるが、その前に「最貧困層に絞った支援を提供しつつ」というフレーズが存在する。この「支援」は、途上国で見られるガソリンや灯油の市販価格を低く抑えるための補助を指す。低所得層にとって燃料価格の上昇は生活への大きな打撃だ。社会不安・政情不安にもつながりかねない。この声明から10年以上経っても状況は改善されているわけではない。 一方、温暖化に伴う海面上昇で危機に直面するマーシャル諸島など島しょ国は会見で「限定する形ではなく全ての石炭火力と補助金の廃止が必要」と訴えた。 ■会議は延長戦、中国の注文とインドの不満 この条文も含め12日夕方になっても成果文書の表現をめぐる結論は出ず、COP26は恒例の延長戦にもつれこんだ。「朝までに新たな成果文書案を示す」とシャーマ議長は宣言した。そして翌13日午前8時のタイムスタンプが記された案は、焦点の「石炭」をめぐる条文がさらに長くなった。この変更で注目されたのは「努力」という文言の追加だ。「排出削減措置がとられていない石炭火力発電」「化石燃料への非効率的な補助金」について段階的な廃止の「努力」を加速させればよい、と読めることになる。石炭火力および化石燃料の産出国・依存度が高い国々の攻勢と、何とか条文に残そうとする側とのせめぎ合いが感じられる。 以下、実際の英文と和訳。 Calls upon Parties to accelerate the development, deployment and dissemination of technologies, and the adoption of policies, to transition towards low emission energy systems,including by rapidly scaling up the deployment of clean power generation and <energy efficiency measures>, including accelerating <efforts towards> the phase-out of unabated coal power and inefficient fossil fuel subsidies, <recognizing the need for support towards a just transition> 締約国に対し、低排出エネルギー体制への移行に向けた技術開発・実践・普及および政策の採用を加速させるよう呼び掛ける。これにはクリーン発電<エネルギー効率向上の手段>を急速に拡大することや、排出削減措置がとられていない石炭火力発電、および化石燃料への非効率的な補助金の段階的廃止を加速させる<努力>も含み、同時に<公正な移行への支援の必要性を認識する>※カッコ内は筆者 なお「公正な移行」という言葉は、脱炭素化がもたらす産業構造の転換などの影響を十分考慮するという概念だ。将来グリーンエコノミーへの転換で置いていかれる人々、特に途上国側への支援の必要性を書き込んでいると受け取れる。この文案をもって13日の“延長戦”全体会合が始まる、はずだったが、予定時刻になってもなかなか始まらない。代表たちは会場の中に入ったのだが、あちらこちらで議論の輪ができている。アメリカのケリー特使は中国の解振華特使と、老眼鏡を使って文言を見ながら話し込んでいた。COP26のシャーマ議長(イギリス)やインドのヤダフ環境相のところにも相次ぎ訪れるなど慌ただしく動き回っていた。中国と話をしている時間が長く、結局は米中が仕切るのか、と強く印象づけられる光景だった。日本の山口環境相もケリー特使と一瞬言葉を交わしていた。 その後、かなり遅れて全体会合が始まった。ここで世界最大の温室効果ガス排出国である中国が、化石燃料をめぐる条文について「いくつかの表現はグラスゴーでの米中共同宣言の踏襲を提案する」と述べた。これは何を意味するのか。 COP26期間中の10日、ケリー特使と解振華特使が会談した後に発表された米中共同宣言には、中国は「石炭消費を段階的に削減することとし、これを最大限加速させる」とある。つまり「米中共同宣言の踏襲」とは「段階的な廃止」を「段階的な削減」に変更せよ、という注文だ。 また世界第3位の排出国で、石炭への依存度も高いインドは「化石燃料とその使用は、世界の一部に高い生活水準と富をもたらした」「この観点から途上国も化石燃料を使用する権利がある」と主張した。インドは「国連気候変動パネルは温室効果ガス全体の削減を言っているのであって特定の発生源を削減せよとは言っていない」とも発言。これは石炭を狙いうちするような文言への不満でもある。その裏には、だったら石油やガスも明記すべきだ、という一種の「脅し」を感じ取った国もあっただろう。 そして、インドでは低所得家庭のLPG(液化石油ガス)使用に補助を出したことで料理のために木炭や草などバイオマスを燃やす(=煙を吸い込んで健康が害される)ことが減った、と紹介しつつ、こう続けた。「このような状況で、どうして発展途上国に対して石炭と化石燃料への補助金を段階的に廃止せよ、などと言えるのか。途上国はまだ発展と貧困撲滅を進めなければならないのだ」 EU=ヨーロッパ連合の代表は「我々はゴールを前につまずこうとしている」と懸念を示した。全体会合は一時、休会となった。 取材:ロンドン支局 あき場聖治(23日9:00)

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