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コンドームを同意なく外す「ステルシング」全米初規制の意味

■12%の女性が「被害」・10%の男性が「加害」経験
「ステルシング」。この言葉を記者は今回初めて知った。「ステルス戦闘機」「ステルスマーケティング」といった形で登場する【ステルス=stealth】という言葉は、「こっそり何かを行う」という意味で、日本でも知られている外来語の1つだろう。だが欧米で「ステルシング」は、ある特定の行為として認識される。性行為中に相手の同意なしでコンドームを外すことだ。アメリカ西部のカリフォルニア州では10月、この「ステルシング」が性的暴行と位置づけられ、法律で禁止されることになった。全米で初めてだ。 カリフォルニア州で性犯罪被害者らをサポートしているNPOによると「ステルシング」の被害報告は、この10年で150人ほどだという。しかし実態はもっと多いと考えられている。密室での性行為は女性が弱い立場になりやすく、泣き寝入りせざるを得ない傾向にあるからだ。性犯罪の構図と似ている。3年前の調査では12%の女性が「ステルシング」に遭い、別の調査では約10%の男性が「ステルシング」の経験があると回答している。 「ステルシングはレイプとみなされるべきだ」。こう話すのは前出のNPO代表キャンディー・ルイス氏。被害者が直面するのは妊娠や性感染症といった肉体的な心配だけではない。他人を信頼できなくなったり、自分を肯定できなくなったりするなどの精神的苦痛も抱えることになるからだ。ルイス氏は被害者が、この両面での支援を必要としているとして、こう訴えた。「女性にとっても健康で安心して暮らすことは『権利』だ」。 ■明確になった「ステルシング=違法行為」 「ステルシング」が性的暴行に位置づけられるきっかけは4年前、当時大学院生だったアレキサンドラ・ブロツキー氏が書いた論文だ。立法機関に「ステルシング」防止のための法的措置を講じるよう求めたものだが、現在、人権問題を担当する弁護士となった彼女は「論文を書いた時、まさか法制化されるとは思っていなかった」と振り返っている。しかし、カリフォルニア州は動いた。 法案を提出したのは、民主党のクリスティーナ・ガルシア州議会議員。当初、彼女は刑事罰を想定していたが議会を通過させるのは困難だと判断。民事法案として今回3度目の挑戦で成立に漕ぎつけた。カリフォルニア州議会は満場一致で「ステルシング」が性的暴行にあたると認定、これにより被害者が加害者に対して損害賠償を求めることが可能となった。ガルシア議員は取材に対し「民事であっても被害者が声をあげやすくなるというメリットがある」「モラルだけでなく法律に反することが明らかにできた」と意義を強調した。 論文を書いたブロツキー氏もメディアへの寄稿で「被害者の多くは加害者が刑務所に行くことは望んでいない。セラピーに行ったり医療費の支払いを返済したり、加害者を避けるために職場を変えたりすることなど、具体的な救済を求めている」として、法規制が被害者に寄り添ったものになったと評価している。また立証が難しい刑事裁判に比べると、民事裁判の方が被害者にとってやりやすいという指摘もある。 「ステルシング」被害者と向き合ってきたNPOのルイス代表は「刑事罰がないので抑止効果がどれほどあるかは未知数だ」と指摘しながらも「『ステルシング』という言葉と、それが違法で信頼を裏切る行為であるということを広く知らしめたことに意味があった』と話す。 ■相手の“性”への理解とは ガルシア議員に法規制に動いた理由を尋ねたら、こんな答えが返ってきた。「インターネットのコミュニティで、男性たちがどうすれば『ステルシング』が成功するかなどを書き込んでいるのを見ました。怒りがこみ上げてきましたし、本当にうんざりしました」 ガルシア議員は刑事罰を伴う法改正も検討している。また高校などの教育現場でこの問題について積極的に議論するよう働きかけもしているという。加害者になりうる側の意識変化が重要だからだ。アメリカのほかの州でも、同様の法規制に向けた動きが起きている。 カリフォルニア州では10月、全米初の「公立学校での生理用品の無料配布」も決まった。これにもガルシア議員は主導的に関わっている。彼女はこの制度の意義について「生理が社会の一員としての女性の生産性を妨げないものになる」としている。裏返せば、そこには女性が不便さを強いられてきたという理不尽さに対する、彼女の思いもうかがえる。こうした制度実現の動きと「ステルシング」の法規制には、相通ずるものがあるだろう。“性”をめぐる不都合や不安、苦痛を抱える人がいることに社会として目を向けようという姿勢とも言える。相手の“性”への理解を深めようとする一歩が今、着実に踏み出されている。 ロサンゼルス支局 尾関淳哉(21日18:00)

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