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「養子縁組の相談をした」 就活生”乳児遺棄”事件、赤ちゃんを守る方法は?

 空港のトイレで出産し、生まれたばかりの赤ちゃんの口にトイレットペーパーを詰め、手で首を絞めて殺害、公園に遺棄した北井小由里被告。実は一時「養子縁組」を検討したこともあったという。殺害に至る前に、支援につなげ、赤ちゃんを救うことはできなかったのだろうか。(TBS報道局:久保田智子)
東京地裁は9月24日、空港のトイレで出産した赤ちゃんを殺害し、遺棄した罪に問われた元女子大学生、北井小由里被告に対し懲役5年の実刑判決を言い渡した。裁判の様子を、私は傍聴席から取材した。北井被告は、髪を一つに結び、黒いスーツ姿で、電車でとなりに座っていたとしても、街ですれ違ったとしても、おそらく気に留めることはなかっただろう“普通”の女性にみえた。しかし犯行の状況が明らかになるにつれ、とても“普通”という形容詞には当てはまらないとわかる。弁護人の質問に答える形で、北井被告は事件当日の様子を語った。 「神戸空港で飛行機を待っているときにお腹にチクッとした痛みを感じた」 「一歩一歩必死で歩いて預け荷物を受け取った。それからトイレへいった。30分ほどいきみ続けた。穴が裂ける感覚だった。股間から何か出てくる感じがして、手で触ってみるとざらっとしたものが手にあたった。人間の頭だと思った、びっくりした。血が便器、股間、太ももについていた。」 「気づいたらトイレットペーパーを口に入れていた。それから首に親指と人差し指で手を掛けた。10分ぐらい力をいれた。動かなくなった。」 本来なら祝福されるべき人生の始まりに、実の母親からこんな仕打ちを受けた赤ちゃんのことを思うと、ただただいたたまれない。せめて、なぜそのような行為に至ったのか、本人なりの合理性を説明をしてほしいと願ったが、北井被告は「パニックで頭が真っ白になった」と、明確な理由は語らなかった。 ■生後0か月の虐待死が最多の現実適切な支援ないままに… 今回のニュースを聞いて、またかと思われた方も多いのではないだろうか。生まれたばかりの赤ちゃん殺害のニュースは後を絶たない。厚労省がまとめた最新の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」第17次報告によると、心中以外の虐待死では0歳児が 49.1%と最も多く、月齢では0か月児が 39.3%で最も多い。しかも、この調査が始まった2003年から一貫して、今回の事件のような生後0日に虐待死した事例のすべてが、医療機関でなく、トイレや風呂場での出産であった。妊娠を他者に知られず、適切な支援を受けることがなく出産し、遺棄に至っている事例が多いことが伺える。 北井被告も妊娠について、親を含め周囲の人には相談できなかったと話している。しかし、一時期、養子縁組を検討し、NPO法人に相談をしていたという。実は私自身も、事情があって実母と暮らせなかった娘を特別養子縁組で家族に迎えている。殺害された赤ちゃんにも、私の娘のように、どこかの家庭ですくすく育つという選択肢があったかもしれないのだと思うと、胸が締め付けられる思いがする。北井被告と養子縁組NPO法人は、一度のメールのやり取りで終わってしまっているのだが、妊娠が他者に明らかになった数少ない瞬間だったはずで、そこで赤ちゃんを守る支援につなげることはできなかったのだろうかと、悔やまれて仕方がない。 ■「救いたくても、救わせない」それでもできる支援とは? 民間の特別養子縁組斡旋事業部「ベビースマイル」で相談員をする鈴木久美子さんは、これまでに1000人以上の妊娠の相談を受けてきた。今回の北井被告のように一度のやりとりで連絡が来なくなるケースは多いと話す。そして、あくまで一般論としながらも、今回のような連絡が途絶えてしまうケースの支援の難しさを語った。 特別養子縁組斡旋事業部「ベビースマイル」鈴木久美子さん「相談者を救いたいと思っても、“救わせない”本人がいることがあるんです。その瞬間は私たちを求めていないんです。私たちも、迷っていることには助言ができるのですが、自分で産んで、自分で育てられるなど、自己決定していることに関して、他人がひっくり返すことはとても難しいのです」 一方で、難しいながらも、相談者のタイミングを図りながら、丁寧に話を聞くことで支援につなげられるケースもあるという。その際にキーになるのが、“常識”で判断しないということだ。特別養子縁組の相談をしてくる女性たちの多くが、中絶できない段階にある女性たちで、世間から厳しい目線を向けられがちだ。 鈴木久美子さん「常識で考えると、初期の段階で妊娠に気づきますよね。中絶できない段階で相談してくる人たちに対して、多くの人は、なんで気づかないの?って不思議だと思います。それで、さらに彼女たちは言えなくなるという悪循環もあります。だけど、本人にしてみたら、気づかなかったことが事実なんです。だから、常識的にこうだから、彼女はこうではなく、彼女の話をすべてを聞いて受け入れて、彼女はこういう人なんだ。じゃあ、こうサポートしていこうと、彼女の常識に寄り添って支援を進めていく必要があります」 常識で判断すべきでないことを示すこんなデータもある。特定非営利活動法人ピッコラーレは「にんしんSOS東京」につながった相談記録を集計分析した『妊娠葛藤白書』をことし4月に発表した。その中で、若年層で中絶ができない段階での相談は、ほかの妊婦とは状況がかなり違うことを指摘している。相談内容が、妊娠当事者だけでなく、家族関係、社会的環境、経済環境、相手に起因するなど、複雑でより多くの困難を抱えているというのだ。そのため、常識的には解決できそうな問題であっても、強く葛藤を抱え、支援制度へのアクセスが難しくなっているという。 ■赤ちゃんを守りたい私たちにできることは? 北井被告は赤ちゃんを殺害する直前に救急車を呼ぼうとしたという。しかし「119番の11まで押した、けど9が押せなかった」と話している。北井被告のためらいが何に起因しているのかはわからない。しかし、養子縁組以外にも、妊娠中にわずかながらでも支援を求めようとしたタイミングはあったのかもしれないと感じる。その瞬間に、常識で判断しないで、話を聞く人さえいたら、赤ちゃんを救う支援につながった可能性もあったのかもしれない。 様々な理由で、自ら発信することが苦手だったり、SOSを発信する手立てが思いつかなかったり、支援を受けることに拒否的、または迷いを感じ葛藤する妊婦たちがいる。国や自治体には、民間とも連携して、積極的なアウトリーチ型の支援を続けてほしい。私自身は、もし今後誰かがSOSを出している瞬間に触れることがあったら、常識を振りかざさず、寄り添って話を聞く努力をできたらと思っている。電車でとなりに座った、街ですれ違った、“普通”に見える人たちが、“普通”でない悩みを持っているかもしれない。瞬間かもしれないが、そんな労り合いが重なることで、将来の被害者をうまないことにつながることはないだろうか。背景にある社会の問題に少しは変化をもたらせないだろうか。裁判を傍聴して無力感に苛まれた私のせめてもの希望として実践したいと感じている。 ■相談できないでいるあなたへこれを読んでいる方の中にも、人に相談できない悩みを抱えている人がいるかもしれません。やみくもに「相談していいんだよ」と呼びかけるのは、それこそ常識的過ぎて、お説教に聞こえてしまうかもしれません。でも、様々な相談の仕方、窓口があるということや、皆さんの悩みや希望に寄り添って、一緒に考えていきたいと思っている人がたくさんいることをぜひ知っておいていただきたいと切に願っています。 ■妊娠の悩みをひとりで抱えている方へ妊娠して困ったときの相談窓口が全国にあります。「妊娠SOS」などで検索すれば今住んでいる地域の相談窓口がきっと見つかるはずです。「なんで妊娠に気づかなかったの?」なんて怒られることはありません。安心して自分の気持ちを話してみてください。(1日14:00)

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