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カブールの医師の訴え「こんなことなら欧米はアフガニスタンに来なければ良かった」

X医師は約束通りの時間にZoom上の画面に現れた。背景はカブールにある病院のオフィス内。日本の支援で建てられた病院だ。話を聞いたのは国際空港での自爆テロが起きる前日だった。
「多くのスタッフがすでに国外に出てしまいました」 タリバンが首都を掌握してから出国してしまう医師や看護師が相次いでいるという。残っている医師たちも治安上の懸念やタリバンへの恐れから出勤してこない。この日は24人いる医師のうち5人だけが出てきていた。 「救急車を使って送迎もできるよ、と提案するんですが、“身の安全を保障してくれますか?”と聞かれます。それは私にはできないじゃないですか」 通常医療には当然影響が出る。そして新型コロナ対策にも。もともとアフガニスタンでは新型コロナに対する意識が低かったという。最近は認知度も上がってきているとは言え、確かに欧米撤収間際の空港の映像を見る限り、あの密状態の中でマスクをしている人はほとんどいなかった。それでもX医師の病院には、ワクチン接種に一日300人が訪れていた。ところが現在の混乱の中、「誰もワクチン接種を受けに来なくなった」という。またスタッフの不足は打ち手の不足も意味する。現在、アフガニスタンは第三波が収束しつつあるように見えるが、検査体制が整っていないため、全体像はつかみにくい。タリバン中心の政権がどんなコロナ対策をとるのか、見えてくるのはまだまだ先だろう。 病院が機能不全に陥っている今、X医師も国外に逃れようとしている。半年ほど前、タリバンから当時の政府幹部を治療するな、と脅迫されたが無視した。それが今、彼の気持ちに暗い影を落としている。報復されるのではないか。事態が落ち着くまではいったん国を離れたい。 しかしタリバンはX医師のような人材がアフガニスタンを去るのを嫌う。記者会見でもアメリカなどに対して「医師や技師を国外に連れ出さないでほしい。我々は彼らが必要なのだ」と訴えていた。実はこの日の朝、病院にタリバンのメンバーがやってきたという。豊かな髭を蓄え、「病院には全くふさわしくない服装」(X医師)をしていたこのメンバーは「保健省から来た」と名乗り、「今後、病院スタッフの雇用や解雇についての権限はすべて病院から保健省に移行する」と話した。この「保健省の男」の通告も、医療スタッフの流出を防ごうとする意図があるに違いない。 X医師は訴える。 「もしタリバンが前の政府よりもずっと上手に行政ができるとわかれば、国外に出た人たちもきっと帰ってきますよ。私だって自分が安全だとわかれば戻ってきます。わざわざ外国で暮らす意味なんてないです」 空港には行ったんですか?と問うと、「テレビで空港の群衆の混乱ぶりを見て、あれではとても家族を連れていける状態ではない、と判断して、行っていません」との答えだった。 今回の混乱を生んだ欧米の撤収をどう思うか、と聞くと、語気を強めて一気に語った。 「欧米は我々アフガニスタン人に自由を与えました。言論の自由、全ての自由です。それを今、突然、原理主義的なイスラム主義に引き渡そうとしています。なので、国民はみなパニックに陥っています。欧米やアフガニスタンの政府は、こうなる、ということを前々から予告して国民に心の準備をさせるべきでした。でも欧米も、ガニ大統領も最後までこんなことになるとは全く言いませんでした」 「こんなやり方で撤退するなら、最初から来なければ良かったんですよ。アフガニスタンに侵攻なんかしなければ良かったんです」 それまで少し怒気をはらみつつも淡々と答えていたX医師は、インタビューの最後に少しだけ辛そうな表情を見せた。 「これまでずっと努力してきましたけれど、国外に出たら“難民”と呼ばれ、またイチからやり直しです。はっきり言って、すごく残念です・・・」 カブール空港で170人以上が犠牲になった自爆テロがあった翌日、支局スタッフがX医師に安否確認のメッセージを送った。なんと医師は前日のテロにもかかわらず空港にいた。聞けばテロがあった日にも空港に行っていたのだという。インタビューの際には混乱しているから行かない、と言っていたのに、必死に脱出路を探る中で空港にも行ってみようと思ったのだろう。「もうあきらめて帰るところです」ということだったので、空港はまだ危険だから近寄らないほうがいいですよ、と念を押した。X医師も「陸路も検討している」と返してきた。今週、また連絡をとったところ、「いろいろトライしたけど、毎回失敗しています」とのメッセージが送られてきた。きっと今、同じような文面を多くのアフガニスタンの人たちが手元のスマホから送っているのだと想像する。それを受け取る家族や親戚の不安を想像する。外に出たい人は安全に出られるようにすることがタリバン政権が国際的に認知される第一歩だ、と欧米は言うが、出口はまだ見えてこない。 取材:ロンドン支局 あき場聖治(05日00:16)

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