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養育費不払い問題「強制執行したらその仕返しが・・・」シングルマザーが明かす実情

 子どもの生活のために必要な「養育費」。しかし受け取っている母子家庭は2割に過ぎない。生活が困窮する要因となり、長引くコロナ禍も追い打ちをかけている。なぜ、受け取ることができないのか・・・その実情を取材した。(取材:TBS報道局社会部 奥野宏輝)
◆「元夫とは公正証書を交わしたのに・・・」約束は全て守られなかった  半年ほど前、法務省で養育費不払いの解消に向けて議論が始まろうとしていた。養育費を受け取っている母子家庭はわずか2割。生活が困窮する要因ともなっている。なぜ、2割しか受け取ることができないのか。私はシングルマザーの生の声を聞こうと、連絡を取り続けた。10人以上と電話で話しただろうか、離婚の原因や子どもの事、養育費についての考えは話してくれるものの、いざ対面やカメラでの取材になると断られてしまう。 シングルマザーは「夫による暴力」「金銭トラブル」「異性関係」など、それぞれが複雑な事情で離婚に至っている。“男の記者である私に会うのも抵抗がある”取材を受けない理由をこう打ち明けるシングルマザーもいた。  その後も取材を続けると、カメラの前でも取材に応じてくれるという40代のシングルマザーに出会うことができた。女性は「離婚後、一銭も養育費が支払われていません」と落ち着いた様子で話した。ただ「養育費不払い問題を解決したい」と思う気持ちは人一倍強かった。 14年前に離婚し、今は高校生の娘と一緒に暮らしている。女性の人生を少し振り返ると、20代で元夫と知り合った。包丁を持って追いかけられたり、気絶するほど暴力を振るわれ警察沙汰になったため、別れようとした矢先に妊娠が発覚した。結婚するつもりはなかったが、一人で育てることを親から反対された事もあり、女性は覚悟を決めて結婚した。しかし、結婚後の生活で、元夫が職場の金を使い込むなどの金銭トラブルが発覚。女性の通帳から預金が勝手に引き出されていた。その後、元夫は行方不明に。たまたま連絡が来たので何とか会う約束をして、離婚届を書いてもらった。  離婚する際、女性は元夫と公正証書を交わしていた。私も見せてもらったが、月々の養育費の支払い金額、滞った場合の元夫の財産を差し押さえることが可能な「強制執行」についても正式な書面で約束をしていた。ただ、約束は全て守られなかった。 ◆「金が無いところからは、取れないからね」公正証書を交わしたのに  女性は公正証書を交わす時に、役場で言われたことを今でも覚えている。  「金が無いところからは取れないからね」元夫も同席していたにもかかわらず、なぜそんなことを言うのか。こっちもないのに・・・女性は憤った。 離婚後、行方不明となった元夫。強制執行するためには、住所などを突き止める必要があるため、女性は元夫の居場所を自力で探し、該当の住所に向かったが、既に逃げた後だった。探偵を雇うお金も、家庭を支えるため精一杯働いているため時間もない。弁護士に頼んでも本当に回収できるかわからない。諦めるしかなかった。 それから14年間、養育費は一度も支払われていない。そして、過去に暴力を振るわれたこともある女性は、こうも語った。 「強制執行したら、多分向こうはイラッとする。その仕返しが自分や娘という弱いところに来るかもしれない。危害を加えられるのが怖い」 実は、この話はDVを受けていた他のシングルマザーからも聞いていた。強制的に養育費を回収すると、居場所を突き止められ、仕返しされるのではないか。こうした心理的負担も、困難に拍車をかけている。 ◆ランドセルに忍ばせた父の写真 不払いの父に長女は・・・  父から養育費を受け取っていない現状を子供たちはどう思うのか・・・。長女はインタビューに、あどけない笑顔を時折見せながらこう話した。  「養育費って子供のためにあると思うんですけど、養育費もらっていたら小さい頃の生活が楽に過ごせてたのかって思う」 「お母さんも仕事を休むこともできたと思う。養育費もらっていたら父に感謝できたかな」  長女は、父とほとんど一緒に暮らしたことはなく、記憶はない。ただ小学生の頃には、ランドセルの奥に父の写真を忍ばせていたと言う。いまの父をどう思うのか・・・  「たまに友達が(父親について)話していると、いいなと思う。でもあまり気にしない」 「会っても話すこともないし、戸惑いもあるから会いたいと思わない」  私はこれが、長女の本心だったのか分からなかった。ただ父親が養育費を支払っていれば、少なくとも長女は父の存在を感じていたはずだ。父親が“養育費を支払う”という責任を果たすことで、直接会わずとも何かしらのつながりを感じながら生きることができたのかもしれない。会うか会わないかは最後は子ども自身が考える事になるだろう。ただ不払いが続くことで、幼いころに僅かにつながっていた糸もいつしか切れてしまったように感じた。 ◆コロナ禍で再就職も難しい状態に ひとり親へのサポートが必要  女性は、シングルマザーに経済的な負担や仕返しなどの危険が及ばない形で、国が税金のように養育費を徴収する形を取って欲しいと訴えた。海外では、給料天引きを実施している国もある。 男女を問わず、全てのひとり親家庭は、子供を育てながら働くので長時間勤務するのは容易ではない。一度辞めてしまうと再就職先を見つけるのも難しい。  厚労省の「全国ひとり親世帯等調査結果(2016年調査)」では、ひとり親世帯は約142万世帯(母子世帯123.2万、父子世帯18.7万)その半数が「貧困の状態」にあると言う(平均年収は母子家庭243万円、父子家庭420万円)。 さらに、2021年6月の完全失業者数は、男性120万人、女性86万人。2019年の同じ月と比べていずれも約20万人増加している。コロナがひとり親世帯の貧困に拍車をかけている。 ◆「養育費は、子どもを中心に。もらうのは子どもの権利」  多摩ニュータウンでひとり親のために食料支援を行う一般社団法人 祥鶴の荒井永理さん。自身もシングルマザーで養育費は支払われていない。子ども食堂から支援活動を始めたが、コロナで活動が滞り、フードバンクや地元の人から食料を引き取り、ひとり親に配布している。最近は、コロナの影響で、仕事を失うひとり親も目立つという。食料配布の現場では、エネルギッシュで明るく振る舞う荒井さん。「明るくしないと」と気を吐いた。ひとり親家庭との情報交換も欠かさない荒井さんに養育費不払い問題について聞いた。  養育費は、受け取れないシングルマザーもいれば、一生懸命働き月々の養育費を支払っている父たちもいる。ただ、現時点で養育費は、意識としてどうしても離婚した夫婦同士が「取った」「取られた」とお金の問題になってしまっている。一方、それぞれの複雑な事情はあるとはいえ、養育費をもらうのは子どもで、子どもにはもらう権利がある。子どもの人権を中心に考えなくてはならない。法律も、親同士での話し合いが前提で作られていると感じていて、制度の改正に期待していると話す。 ◆法務省は?国は何を?  法務省では「法制審議会」で制度改正のため専門家が議論を続けている。元夫が行方不明となり、強制執行できないケースについても議論されていて、裁判所が特例的に居場所を把握することについても議論されているという。申し立てた人の経済的、心理的な負担を極力減らすことが目的だ。 また、離婚届についても、QRコードを記載することで離婚前の取り決めについてまとめた法務省のページにアクセスできる新たな取り組みも行われている。ただ、法改正までは、まだまだ長い道のりだ。 一方で、長引くコロナ禍によってひとり親家庭の生活もギリギリまで追い詰められている。養育費の不払いは、早急に解決すべき問題だ。ただ、それに加えひとり親家庭をサポートし、国として子どもを貧困に陥らせないような取り組みが必要ではないだろうか。法務省に限らず、横断的な対策が求められている。(25日14:22)

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