岡山市出身でフランスのパリを拠点に活躍する画家、赤木曠児郎さんから月に1回程度「パリ通信」を送っていただいています。

2012年9月5日

「秋の風鈴考」

 東京の明治神宮にフランス人一行をつれて訪れた6月、参道の売店で沢山の磁器の風鈴が、吹き抜けにチリンチリンと賑やかな音を立てていた。有名な招き猫メーカーのものである。丁度、何でもいいから梟のオブジェのスーブニールを、買ってきて欲しい。4月に日本に行ったおり土産を頼まれ忘れたのでと、別のフランス人の友人からも依頼されていた。梟を見つけて値段も手ごろ、自分用にも他のデザインのものをと、二つ買った。一行のフランス人たちも、有名な日本の磁器製品ではあるし面白いと、金魚、動物、招き猫の風鈴を、何個々々も買った。参道の杉木立の風で、派手に客を呼んでいたのである。
 さて、旅の思い出にとアトリエに吊るしてみたが、ちっとも鳴らない。豚の蚊取り線香いれの型の風鈴を、面白いと選んだのだったが、時々チチ、チッツと音を発するだけである。形が四角形なので振り子がよく当たらないのでは、と思えたのである。それで我が家にも以前からあった風鈴を出してきた。南部鉄で打ったのと、トルコで買った鈴が数個つながったもの、みんな隅っこで埃を被っていたものである。風が当たらないと鳴らない訳であるから、窓辺の内側に吊るした。並べて比べて見ると、家にあったものは、私が立派にと思って本物の短冊を、丈夫にと、太い紐で付けてある。少々の風では動じない。新しく買ったのは、ぺらぺらの紙で、細い糸で今にも千切れそうに中の振り子と繋いである。それでヒラヒラと風に舞い上がるのが分かった。
 

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