サンミッシェル河岸
 

「催し物の季節」

 パリのオート・クチュールのデザイナーも、同業他人のコレクションに絶対行かなかった。これも自分の世界に集中して、何か創ろうと凝集して暮らしているからで、勉強のためと見学に覗きたがるのはまだ一級プロではないというのが、この頃よくわかる年齢に、私もなってしまった。外国人などは、つい後学、経験、勉強のためと、自分をなだめて見たがるが、一級の集まるパリでは自分の世界に集中していなくては消えてしまう。自分の仕事の場でゴロゴロと自分中心に、自分の世界に暮らしているのが、本来なのである。孤独なものなのだが、他人の仕事なんて知っちゃいない。
 それでも先日、稀に招待日に出掛けたのが、グランパレ国立美術展会場で開かれた「イタリア・ノバ」展だった。まだ七月まで続いているが、1900年から1950年までの半世紀のイタリア絵画の動きの総括というので、興味があったのである。
 1958年にスイスで出版され、1962年には日本語にも翻訳され、美術出版社から出ている「呪われた絵画」という第一次・第二次両大戦間のヨーロッパ美術界の動きについて書かれた本があって、未来派、表現主義、絵描きは変人、みんな風変わりだからこの題名かなと、訳者もあとがきにそう書いているし、四十年来思っていたのだが、この本の題名は「ヒットラーに」と前置きをつけるべきだったのだと、この会場でフッと思い出してしまった。

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