ダビウー通りの館(1)
 

「春」

  2月には、16区にあるバカラ美術館で、与勇輝(あたえ・ゆうき)という布地で作る人形作家の展覧会が開かれている。昭和の始めの頃から、戦中、戦後の頃の日本の風俗を人形にしたもので、中高年日本人には一も二もなくノスタルジーに引き込まれてしまうものだが、何処までフランス人を引き込めるだろうか、日本の少女マンガで若い世代は馴染んでいるから、それが立体になったようなもので、若者の方が興味を持ちそうである。
 しかし興味があるのは、このバカラ美術館そのものである。二年半ほど前から、以前は北駅の近くにあってバカラグラスのクリスタル製品展示場が、新しく移転して出来あがった物で、日本の天皇家が20世紀の始めに注文して作らせたグラスとか、伊藤博文侯爵家紋入り注文グラス、昔からの世界の名家、有名人のオーダーの品々の見本記録が並んで展示されている美術館。中に現代の注文も聞ける売店、展示場や、レストランも開かれている。1895年に建てられた銀行家のための個人のお屋敷だったものだが、この16区アメリカ広場の周りには、同じような屋敷が立ち並んでいる。個人の家では入れないが、美術館となったので入場料を払えば入れる。
 現代に繋がるフランス・ブルジョアの社交生活とはどんなものなのか、大階段、サロン、居間、食堂、香りの端だけでもうかがえるから、興味深々の場所である。エジプト大使公邸とか、舞踏家イダ・ルビンシュタインの屋敷だった家とか、みな華やかな歴史に飾られた家々がこの広場に面して並び、少し歩いた脇道に「失われた時を求めて」のマルセル・ブルーストの最後の住まいとなったホテルもある。こちらは少し質素で、感慨にふけるのかも知れない。

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